時計が真夜中の0時を指した。

同時に村に魔界からのゲートが現れ、どす黒い魔力があふれだしているのが目に入った。もう時間はないみたいだ。すぐにでも魔法陣を完成させないといけない。

確かに、魔法陣を完成させるための魔力は村で見つけたアイテムの中にはなかった。ましてや魔導士たちが全滅してしまった今、魔力を作り出してもらうこともできない。

でもこの村に魔力がなくても、もしかすると僕はそのアイテムを初めから持っていたんじゃないのか?

父さんからはいろいろなものを教わった。”ひと助け”の信念が、魔導士である以前に人として大切であると。そして、その信念を絶対に曲げてはいけないこと!

そう想いを巡らしながら、僕は目の前の魔法陣に父さんからもらった赤い宝石を置いた。すると宝石は強く輝きだし、強い魔力を放ち始めた!

それに気が付いた魔物が、僕の方にまっすぐ向かってくる。

「なんだキサマ?この村にまだ…これほどの魔力が眠っていたとはな。だが今までの魔導士と同じように、一撃で粉微塵にしてやろう…」

逃げる間もなく、魔物は一瞬で目の前に迫ってきた。それと同時に大きく振りかざした右手が、僕の頭に一直線に振り下ろされる。

―――大きな破裂音と共に、大量の血が辺りを染めた。

「久しぶりだな。よく、自分の信念を曲げなかったな。よくやった。」

目の前には魔法陣の中央に立つ父さんと、右手を失った魔物が向き合っている。

「父さん!?」

数年ぶりに見る背中がそこにはあった。

「この宝石には俺の魔力を込めていたんだ。お前が自分の信念を曲げずに進んだ時、どこかで役に立つかと思ってな。俺が来たからにはもう大丈夫だ。」

「グアァァァ!オレの右腕がぁ…。なんだキサマ。なんだその強力な魔力は!?」

どす黒い魔力をまとった魔物は確かに強かったが、輝く魔力を持つ父さんには遠く及ばず、終始圧倒されてしまい、あっという間に倒された。そして、ゲートも消滅した。

「お前が作った魔法陣は、込めた魔力の持ち主が召喚される陣だったみたいだな。自分たちでは太刀打ちができないと考えたこの村の魔導士たちが、賭けとして周囲の街に助けを求めたんだろう。」

「それじゃ、村の魔導士たちの賭けは勝ちに終わったんだね。」

「確かにそうだな。『ひと助け』の信念を持つお前が来てくれたんだから。人々のために役に立つ能力は、魔力という才能にだけ宿るのではない。誰かを助けたいと思う心が全ての原点だ。これからもそれを忘れるなよ。」

父さんは、これからも僕にできることを目一杯やって欲しい、そう言い残して、僕の前から去っていった。

数年後、魔力を持たない僕は、魔導士をサポートするアイテムや魔法陣を研究する組織のリーダーになることをまだ知らないでいる―――。

~FIN~


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